KYOSUKE
「―――その晩、俺は見ちまった」
「見たって………何を…?」
俺はマサさんの言葉を聞くのが怖かった。何があってもおかしくない状況なのに、頭の中で想像できるたくさんの事柄が―――どれも最悪な事態だったから。
マサさんは顔を覆ったまま背中を丸めた。
灰皿に置いたままのタバコの先から煙が立ち上っている。
上へ上へと舞い上がる煙の先はすすけた天井で、まるで彼女の過去を現しているかのようだった。
「―――あの晩……明りを消した暗い台所でお嬢は包丁を握って、その刃をじっと凝視していた。
感情を無くした仮面のようなのっぺりとした顔で、じっと……見据えていた」
その光景があまりにも異様だったのだろう。
マサさんは思い出すだけで恐ろしいと言った感じで、背中を僅かに震えさせた。
俺の背中にも電流のような悪寒が走りさった。
そのとき着ていた白いシャツがまるで幽霊のように見えて、薄気味悪かった。
マサさんはそう続けた。
「どうするつもりか、俺はお嬢の後をそっと尾けていった。お嬢が自室に入られると、そのすぐ後に雪斗さんが―――
そしてその数分後に―――
今度は会長が入って行かれた。
手に、雨龍(ウリュウ)………龍崎家の家宝とも言える日本刀を手にしていた」