KYOSUKE
『ここから眺める桜は―――ホントに見事なもんなんだ。キョウスケ』
以前彼女がこぼした言葉をふと思い出す。
あのときお嬢は桜の木を眺めながら、
そっと涙を流していた。
誰にも気づかれないよう。まるで人目を憚るように……
声を殺し、ただ静かに。
桜―――か……
俺は庭先に咲く一本の桜の木を思い描いた。
樹齢を思わせる大きくて立派な木に、春にはそれは見事な花を咲かせるだろう―――その光景を。
俺はそっとマサさんの肩に触れた。
小刻みに震えていたマサさんの肩がぴくりと大きく動き、やがては静止した。
「マサさんのせいじゃないですよ。誰のせいでもない」
誰も悪くない……
そう続けると、マサさんは声を上げて涙を流した。
マサさんの泣き声を聞きながら―――
『こんなに痛いのなんて、好きな人じゃなかったら絶対いやだよ。痛みも思い出……』
俺は河野さんの言葉を
思い出していた。