KYOSUKE


俺の言葉にお嬢は弾かれたように背筋を正した。


「あぁ、何だ。チョコのことかよ。おめぇがあまりに真剣だからちょっとびっくりしたぜ」


照れ隠しに大げさな仕草で髪を掻き、お嬢はチョコレートのパッケージをびりびりと破いた。


開け方が豪快だった。


動揺を押し隠すため―――じゃないな…


彼女はきっといつでもこうだ。


クスっ


それが妙に笑えてきて、俺は笑い声を漏らした。


「な、何だよ。笑うこたぁねぇだろ!アメリカ方式だ!」


「そうですね」


小さく答えながら、俺はそれでも彼女がパッケージを破る様を楽しそうに眺めた。


パカッ


蓋を開けると、色とりどり…形も様々なチョコレートの粒が列をなして並んでいる。


「いいなぁリコは」


チョコを眺めながら、お嬢は羨ましそうに頬を緩めた。


“リコ”って言う名前を俺はお嬢からよく聞く。お嬢からは親友だと聞いていた。


彼女のことを喋るときお嬢はすごく楽しそうだ。


俺はそれだけで幸せになれる。


「夏休みに家族とオーストラリア旅行だって。リッチだよなぁ。あたしは国外に出たことないってのに。おめぇは行った事ある?」


チョコを選びながら急に話を振られ、俺はチョコを選ぶ手を止めた。


「ハワイぐらいなら」


「えーーー!お前ンとこもリッチじゃん!!さてはどっかの御曹司だな?」


お嬢は明るく笑って、チョコを一口口に入れた。


いつも通りの俺たち。


小さなことでこの日常は壊れてしまうかもしれないけれど、俺は今の幸せを精一杯噛み締めるよう笑顔を浮かべた。





< 195 / 257 >

この作品をシェア

pagetop