KYOSUKE
桜の木の下に―――
小さな人影を見た。
白っぽい寝巻きを着た―――女の子の影だ。
暗い夜空と、鬱蒼としげる木々の影に、女の子のシルエットだけがぼんやりと白く浮き上がっている。
一瞬―――……幽霊かと……思った。
ちなみに俺に霊感は全くない。
だけど目を凝らしてみると、それは見慣れたお嬢の姿だった。
お嬢……あんなところで何やって…
お嬢は体を屈め地面に向かって、何か手を動かしている。
月の明りだけがお嬢の白い背中が頼りなげに浮かび上がらせていた。
俺は一階まで降りていって、縁側の戸をそろりと開けた。
お嬢は俺が戸を開けたことにも気付かず、背を向けて屈んでいる。
沓脱ぎ石に置いてあるサンダルを引っ掛けて、俺はそろりと庭に降り立った。
残暑を思わせるねっとりとした空気が気持ち悪い。
それなのに夜の風だけはしっかり秋の気配を思わせていて―――Tシャツにハーフパンツ姿だった俺の体を冷たく撫でていった。
奇妙な空気に当てられ、俺の体が小さく震える。
俺がお嬢に近づいていっても、彼女は俺に気付かず、もちろん顔を上げることもなかった。
少し遠くからその様子を窺っていると、お嬢が土を掘っていることに気付いた。
白い素手でを泥で汚して、それでも懸命に―――
その白い顔は何かに急きたてられるかのように緊張を帯び、その手付きはまるで何かにとり憑かれたように必死に動いていた―――