KYOSUKE



もちろん桜の下に死体が埋まっているから、桜はピンク色なんて話はデタラメだ。



昔は、何らかの理由で墓を立てることができない時(落人などが素性を隠す、巡礼など旅先、現在のような墓石を立てる習慣ができる前、などなど)、桜の木の下に遺体を埋葬したのではなく、遺体を埋葬した上に桜を植えたらしい。


それが奇妙な言い伝えを残し、伝承化してそんな話ができあがったに過ぎない。


実際には桜の花の色(ピンク色)には、アントシアニン系の色素が関係しているという研究報告がある。


植物の色素は、その植物の酸性・アルカリ性等の性質によって発色する色素が決まると聞いた。なので、桜の花がピンク色の色素を発現させる性質であるのだ。




そんな冷静な自分が居るのに―――


目の前に居るお嬢の姿を見ていると―――あたかもそれが真実に思えてくる。


「お嬢……」


俺は彼女の小さな背中に向かって声を掛けた。


だけどお嬢は一心不乱に土を掘り、その手を休めようとはしない。


「お嬢」


もう一度呼んでみる。


お嬢は真剣な眼差しで土を凝視しながら、


「埋めなきゃ…秘密を……埋めなきゃ……」と口の中で唱える。


まるで呪詛のように繰り返し、繰り返し。


そして何かから逃れるように必死に―――




お嬢………



そこには何も埋まってません。



お嬢を苦しめた雪斗はもう居ないんです。





そう―――秘密なんてものは最初からなかった。





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