KYOSUKE


ガラっ


縁側の引き戸が開き、パジャマ姿のマサさんが姿を現した。


「お嬢……」


彼は俺たち二人を見ると、心配そうに眉を寄せ、俺と目が合うと小さく頷いた。


「マサ」


お嬢は俺の腕から抜け出すと、


「マサぁ」と言って駆け出し、彼の体に抱きついてワンワン泣き出した。


マサさんはあまり驚いた様子を見せずに、お嬢をあやすように抱きしめると、彼女の頭を撫でた。


はじめて見せる優しい顔つきだった。


龍崎会長が見せる笑顔にちょっと似ていて、でもそれは家族以上の視線ではなかった。


まるで一人娘を心配する父親。そんな言葉がしっくりくる。


「お嬢、もう大丈夫ですよ。また怖い夢見たんですね」


お嬢がこんな奇行をとったのはこれがはじめてでないのだろう。


マサさんは手馴れた手付きでお嬢の頭を撫で、そして縁側の中に入るよう促した。


お嬢は小さく頷いて大人しくサンダルを脱ぐと、縁側の向こう側へ入っていった。


あとに残された俺を見て、マサさんがちょっとだけ苦い笑みを漏らす。


「悪かったな、キョウスケ。びっくりしただろう?」


マサさんは俺の涙に気付いたようだけど、それについて何も言ってこなかった。


俺はぐいと手首で乱暴に涙を拭うと、


「いえ。大丈夫です」と短く返した。


「お嬢は俺が寝かしつけるから、大丈夫だ。おめぇも早く寝ろよ」


それだけ言って彼も俺に背を向ける。




< 203 / 257 >

この作品をシェア

pagetop