KYOSUKE
ガラっ
縁側の引き戸が開き、パジャマ姿のマサさんが姿を現した。
「お嬢……」
彼は俺たち二人を見ると、心配そうに眉を寄せ、俺と目が合うと小さく頷いた。
「マサ」
お嬢は俺の腕から抜け出すと、
「マサぁ」と言って駆け出し、彼の体に抱きついてワンワン泣き出した。
マサさんはあまり驚いた様子を見せずに、お嬢をあやすように抱きしめると、彼女の頭を撫でた。
はじめて見せる優しい顔つきだった。
龍崎会長が見せる笑顔にちょっと似ていて、でもそれは家族以上の視線ではなかった。
まるで一人娘を心配する父親。そんな言葉がしっくりくる。
「お嬢、もう大丈夫ですよ。また怖い夢見たんですね」
お嬢がこんな奇行をとったのはこれがはじめてでないのだろう。
マサさんは手馴れた手付きでお嬢の頭を撫で、そして縁側の中に入るよう促した。
お嬢は小さく頷いて大人しくサンダルを脱ぐと、縁側の向こう側へ入っていった。
あとに残された俺を見て、マサさんがちょっとだけ苦い笑みを漏らす。
「悪かったな、キョウスケ。びっくりしただろう?」
マサさんは俺の涙に気付いたようだけど、それについて何も言ってこなかった。
俺はぐいと手首で乱暴に涙を拭うと、
「いえ。大丈夫です」と短く返した。
「お嬢は俺が寝かしつけるから、大丈夫だ。おめぇも早く寝ろよ」
それだけ言って彼も俺に背を向ける。