KYOSUKE
それまでは割りと平穏だった。
高校二年の春。
俺は進路志望に東京の医大を書いた。
それをどこからか聞きかじった戒さんが、またも俺の家に駆け込んできた。
戒さん中学三年生の冬だった。
彼もまた俺の高校に進学する予定でいた。進路希望調査票を自慢げに見せて来た記憶がある。
この頃戒さんは―――
少年のような外観の可愛らしさに加え、男らしい色っぽさが現われ……
はっきり言って女の子からかなりモテる。
女の子とそれなりに遊んではいそうだったけれど、これと言う本命は居ないらしく、付き合いはそう長くは続かなかった。
戒さんはまだ、ずっと探していたのだ。
たった一人の女を―――
「どういうことや!!東京行くってほんまのことか!!」
声変わりもして、随分声の迫力も増した。
「ほんまのことです」
俺は相変わらず無表情で答えた。
笑って言うことでもないし、怒っていうこともない。
人は言う。
俺をどこかに感情を置き忘れてきた人形みたいだ、と。
そんなことはない。
俺だって笑うこともあるし、怒ることだってある。
ただ人より感情を表に出すのが苦手なだけ。
自分のことを話すのも苦手。
って言うか喋るのが苦手。
かといって人付き合いが悪いわけでもない。友達もたくさん居るし、彼女だって居たことがある。
今は居ないケド…
だからかな。東京行きを決めることになんの抵抗もなかった。
ただ、戒さんがこんな風に血相を変えて怒るとは思わなかった。