KYOSUKE
「なんですか?」
俺はお嬢の顔に耳を近づけると、彼女はまたも幸せそうにふわふわ笑みを浮かべ、
「キョウスケ、好き」
と一言呟いた。
今度こそ心臓が爆発するんじゃないかと思って俺は心臓の辺りを押さえたが、
その心配はなかった。
変わりに壊れて動かなくなっている。
それはそれで問題だが……
勘違いするな。
お嬢の「好き」ってのはマサさんやタクさんに向けられる愛情と変わらないもので、
きっと家族に対するものに相違ない。
それでも嫌われてないだけいいか。
幸せそうな彼女の笑顔を見て、それだけで満足だ。
そして彼女の夢に少しでも現れることができたことに―――嬉しさを覚えた。
俺は彼女にそっと微笑みかけると羽毛布団を引き上げて、立ち上がった。
お嬢の部屋をあとにして、彼女の部屋の扉を見つめながら、俺は今見たことあったことを―――
改めて思い出し、
そして目を閉じて、記憶の奥底に沈めた。
この出来事―――そして“黄龍”の存在は―――
戒さんに報告するつもりもない。
もし彼が気付いたとしても、俺は知らない振りをすることを
決め込んだ。