KYOSUKE
「何で…お前鷹雄を継ぐんじゃねぇのかよ。おやっさんは色々事業手がけてんじゃねぇか。その一つの社長にだってなれるんだぜ」
「俺は誰かの上に立つのはごめんですね。大体そんな器やないし。それよりも研究室こもってマウスやラットを相手にしてたほうがよっぽど楽」
本心だった。
親父のこともヤクザの家という事実も嫌じゃなかったけれど、大勢居る組員の頂上に立つ気には到底なれなかった。
だから畑違いの医学の道に進みたいと思いはじめたのはこの頃。
「なんでそないな大切なこと、もっと早く話してくれへんかった」
俺の返事を聞いて、戒さんはひどく失望したようなそれでいてどこか悲しげに力なく言った。
「俺、自分のこと喋るの苦手やから」
「そないなことっ!」
戒さんの琥珀色の瞳の中に燃えるような赤いものがきらりと輝いて、彼はいきなり俺の胸ぐらを掴んできた。
「そないなことわかっとるわ!!せやけど俺には!!俺にはほんまのこと話してくれても良かったやないか!」
掴んだ胸ぐらを押され、俺は壁に叩きつけられた。
彼が俺にこんな乱暴を働くのはこれが始めてだった。
今思えば、彼は俺に裏切られたと思ったんじゃないか。
俺に置いていかれたって思ったんじゃないか。
ずっと一緒だったから―――
まぁそんなこと今考えてもしょうがないんだけどね。
俺は戒さんの手にそっと自分の手を重ねた。
「いつまでも…いつまでも仲良しではいられへんのです」
俺の冷静な言葉が戒さんの怒りを誘ったのは分かった。
戒さんは前触れもなしに、俺の頬を思い切り殴った。