KYOSUKE
派手な音がして、俺がずるりと床に座り込む。
戒さんのパンチは強烈だ。気心の知れた幼馴染だって言うのに、まるで容赦がない。
焼けるような痛みを頬に感じて、俺はそっと手を当てた。
口の中で鉄のいやな味が広がる。口腔内を切ったようだ。
「どないしたん!!?」
隣の部屋から、物音を聞きつけて鞠菜が部屋に飛び込んできた。
倒れ込んでいる俺と、息を荒くした戒さんを見比べて目を丸めている。
「お兄ちゃん…戒くん……?」
戒さんは俺を冷たい目で一瞥すると、鞠菜の横を通り過ぎた。
「何でもあらへん」
まるで吐き捨てるような、斬り捨てるような物言いに、彼が完全にキレたことを物語っていた。
「戒くん!」
妹は……鞠菜は倒れている兄より、ただごとじゃない戒さんを追っていった。
それから戒さんと口を利かなくなった。
小さな言い合いをしたことは何度もある。どちらかが拗ねて口を利かなくなったこともある。でもそれはすぐに解決してきた。
俺は正直戒さんが何に対して怒ってるのか分からなかった。
何故俺が殴られたのか分からなかった。
そして妹は何故戒さんを選んだのか―――
分からなかった。