KYOSUKE
「やっといつものお前やな」
戒さんはのんびり言って、にかっと笑う。
やっぱり………戒さんだけだな。俺のちょっとした心の動きを読むことができるのは。
六時だと言うのに、この頃すっかり日が長くなって、まだまだ沈む気配のない太陽を背に、俺たち二人の影が仲良く並んでいる。
「でも珍しいな。お前が機嫌悪いやなんて。もしかして、さっきの女の子と何かあった?」
戒さんはワクワク聞いてきた。
図星だった。
河野さんを帰したあと、俺は無性に苛々と言いようのない怒りを募らせていた。
彼女が悪いわけじゃない。
うだつの上がらない俺自身に嫌気が差したんだ。
「別に……何も…」
「ふぅん。そやかて、あの女お前に気ぃあるようだったぜ?据え膳食わぬは男の恥言うやないか」
またどこからか変な言葉を覚えて……
「お前も初めてやあらへんし、ええやないか」
何故それを知ってる??
色々突っ込みたかったが、言葉にはならなかった。
だんまりの俺に、戒さんは一人納得したように手をポンと打った。
「それかあれか!?無理やり押し倒して、嫌われた??」
「まさか。戒さんやあるまいし」
「阿呆!俺かて無理やり押し倒したことはないで。合意の上や!まぁでもお前は性欲薄そうやしな。それはなさそうやな」
…………合意の上て…まぁそれに性欲薄いってのは、否めませんが。
そんな話をしながらも、俺たちはいつの間にかアパートまで帰り着いていた。