KYOSUKE
俺は戒さんの頬から手を離した。
それでも戒さんは俺の上から顔を退かせようとはしない。
またぞろまっすぐに俺を見ろしてきた。
琥珀色の瞳が揺らいでいる。
「ほんまか?お前、相手は青龍やぞ?」
「そっくりお返しします。」
戒さんはふっと涼しく笑うと、今度こそ俺の上から顔を退けていった。
「お前も、言い出したら聞かん性格やさかい、止めても無駄やな」
ははっと俺は乾いた笑いを漏らし、カーテンから洩れる月明かりに照らし出され、青白く染まった天井をぼんやりと見つめた。
「親父の事業を継がん言いましたけど、俺はやっぱり生まれ付いての極道や。運命に逆らおうしても無駄やった」
ほとんど独り言だった。
「いくらカタギみたいに生活しようと、隠せないもんですね」
「どないした?何かあった?」
俺は目だけで戒さんを見た。
戒さんは先程と同じようにマットレスに肘をついて俺を眺めていた。
「河野さん…さっき部屋に来た女の子に言われました。ときどき目つきが怖いて」
「分かる。何考えてるか底知れんときがあるからな」
「大したこと考えてないですよ?例えば夕飯なんやろな~とか」
「どうせそんなもんやと思うたけど(笑)」
「隠しとっても時々言葉遣い悪うなるし、喧嘩を見ると血が騒ぐ。親父の背中に入っとる紋には昔から憧れてた」
俺はちょっと笑って、目を細めた。再び天井を見上げる。
「俺は生まれ付いての極道。極道の道に生き、死ぬのもまた極道で、や」