KYOSUKE
「―――っつ!!!」
河野さんが短く息を飲み込む気配が背後で感じ取れた。
「そ、それ…ホンモノ……?」
「ほんもんや。言うたやろ?俺はヤクザの跡取り息子やて。関西では鷹雄組言うたら結構名のある組なんよ」
「だって…冗談かと…」
「冗談やあらへん。俺はほんまもんの極道や。こんな男と付き合える?」
今まで……
付き合ってきた子たちに俺は自分の正体をばらしてこなかった。
どうせ逃げられるのがオチだし、そもそも誰とも本音で付き合ってこなかった。
嘘を付いてるわけじゃないけど、ただ黙っていただけ。
だけど、今回何故か言う気になったのは、単なる断る理由が欲しかったのか―――
それとも……
戒さんみたいに誰かを本気で想いたかったのか―――
俺はゆっくりと振り返った。
河野さんは両手で口を覆い、目をいっぱい開けていた。
「悪いことは言わへん。こんな男のこと早よぅ忘れてまい」
俺はちょっと寂しそうに笑った。
ヤクザなんて無縁の世界で生きてきた普通のお嬢さんには、俺みたいな男不釣合いだ。
「…ご、ごめんなさい!あたし。あたしっ!!」
河野さんはバッグを引っつかむと、飛び出るように部屋を出て行った。
―――そんなことがあって、わけもなく苛々としていた。
本当の俺を知ったら、みんな離れていく。
だから最初から居ない方がいいのだ。