KYOSUKE
その晩、俺は親父に電話を掛けた。
鷹雄組の事務所と家が離れているせいもあるが、手広く事業を手がけている親父が家に帰ることはあまりなかった。
だからこうやって二人で話すのは、随分久しぶりだ。
俺が龍崎組に行くことを伝えると、親父は怒り出すどころか笑い出した。
『おめぇの一度決めたらてこでも動かねぇところ、昔から変わってねぇな』
それ、戒さんにも同じこと言われた。
『頑固ってこと?』
『まぁそういうことや。誰に似たんだか』親父は乾いた笑い声をあげた。
『行ってきぃ。お前のやりたいようにやれや』
親父の笑い声を聞いて俺はほっと安堵した。
『鞠菜に泣かれちゃったよ。お兄ちゃんはあたしより戒くんの方が大事なんや!って。変な妬きもちやいてさ。戒さんは幼馴染やし、弟みたいなもんやから』
俺の言葉に、親父はちょっと『ははっ』と笑い声を漏らしたのち、
『それは血ぃやな』
と意味深なことを言い出した。
『……血』
『せや。お前の中に流れる鷹雄の血ぃや。古くから鷹雄は虎間を支え、護り抜く一族。その血ぃがお前の中で騒いでるんやろ。
響輔。行って来いや。お前の気ぃ済むまで思う存分動いてこいや』
親父の言う「血が騒ぐ」と言うのはたぶん間違ってないと思う。
でも血以前に、俺は昔から彼だけが自分を理解してくれて、受け入れてくれた。
―――ただ大切なんだ。
親父の言葉を受けて、俺は青龍会直系、龍崎組の間者(カンジャ:スパイのこと)になることを決意したのだ。