KYOSUKE
決して筋肉ムキムキのマッチョマンってわけじゃない。
黒い髪を撫で付けて、額に粋に一房垂らしているのを覗けば、エリートサラリーマンに見える。
……のに、その存在と威圧感は絶対にカタギとは思えないものだ。
ごくりと生唾を飲み込むと、その隣でお嬢がはしゃいだ声をあげた。
「叔父貴!!」
お嬢が龍崎会長に飛びつく。
それは嬉しそうに声を弾ませ、初めて見せるどこか色っぽい表情で会長に抱きついている。
ドキン―――また……痛みが。
俺は胸を押さえた。
「朔羅。良い子にしてたか?」
龍崎会長はお嬢の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、ふっと表情を緩めた。
初めて聞く声は、心地よい重低音で耳に響く。
「みんなと仲良くしてたよ。あ!そうだ!!こいつっ!キョウスケってんだ!!この前拾ったの!!」
お嬢は俺の腕を引っ張ると、まるで猫か何かを拾ってきたような気軽さで俺を紹介した。
「キョウスケ?」
龍崎会長が少しだけ眉間に皺を寄せ、視線を険しくさせながら俺を見据えてきた。
俺はまっすぐにその黒い目を見返した。
この男が盃の件を―――お嬢の縁談話を持ち出した―――?
お嬢は恐らく気付いていない。
その険しい視線の中にある何かを探るように、俺は目だけを上げた。
どれぐらいそうやって見詰め合って…いや、睨みあっていただろう。
龍崎会長の方が先にふっと瞳を和らげた。