KYOSUKE
「おめぇ面白いな。酒ならいけるって言ったよな」
「少しならって」
「よし。おい!マサぁ!」
龍崎会長はいきなり大声でマサさんを呼んだ。
「へい!」すぐにマサさんが襖を開ける。きっと近くに控えていたんだろうな。
「ダンバートン持って来い」
龍崎会長はタバコを口に挟んだまま器用に口を動かせ、マサさんにそう言い付けると、マサさんは「へい!」と短く返事をして行ってしまった。
すぐにマサさんがウィスキーのボトルとグラスを二つ持ってきて、また去っていく。
「まぁ飲もう。男同士。俺とお前の盃だ」
龍崎会長は不敵に笑い、俺のグラスに琥珀色の液体を注ぎいれた。
それは戒さんの瞳によく似た色で―――とてもきれいな色をしていた。
戒さん……
最近俺は戒さんのことを考えると胸が痛む。
原因不明の心臓病に頭を悩ませつつもあるが、戒さんのことを考えると自然お嬢のことが浮かび上がる。
お嬢の笑顔。明るくてひまわりみたいな可愛い笑顔。綿菓子みたいな甘い笑顔。
それを思い浮かべると、胸の痛みは酷くなる一方だった。
傷みを増長させないよう、俺は目の前のグラスに視線を落とした。
今は余計なことを考えるのはやめよう。
ウィスキーなんて初めて飲む。
まずくはないけど、よく味が分からない。
「おめぇも度胸が据わってるな。何考えてるかわかんねぇ節があるしな」
「あ、それ。良く言われます。付き合ってた女の子に必ずそう言って振られるんです」
俺の言葉に龍崎会長は、またも「はははっ!」と豪快に笑った。
何か…最初の印象と随分違うんですけど。
そんな気持ちは押し隠し、それでもこの笑顔の下に何か企みを隠していそうで気が抜けなかった。
俺と龍崎会長。一方的な彼の笑い声の中、夜は淡々と更けていった。