KYOSUKE



ぼんやりと揺らぐ視界にお嬢の小さな背中が見えた。


縁側から入った風がお嬢の背中まで伸びた茶色い髪を僅かに揺らす。


ふわり、とまたチェリーブロッサムが香ってくる。


お嬢の背中は小さく…本当に小さく震えていた。


風が、お嬢の小さな声を載せて俺の耳に届いた。






お嬢―――?泣いてるの?






そう、それは嗚咽だった。


お嬢、どうされました?学校でいじめにでも遭ったのですか?


そう心配して聞きたかった。


だけど口は開くことがなかった。


お嬢はゆっくりと振り返る。


いや、振り返ったわけじゃない。僅かに横を向いたお嬢の白い顔に


表情は無かった。


ただ無表情に、





静かに涙を流している。





その泣き顔は―――






とてもきれいだった。








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