はぐれ雲。
「元気…だったか?」
ふいに亮二が目を伏せながらそう聞いた。
博子から少し笑みがこぼれる。
照れくさい時は、いつもそうやって目をそらせていた彼を思い出したのだ。
「うん。新明くんも?」
「まぁな」
ぎこちない会話だったが、少しずつ博子の気持ちは落ち着いてくる。
「本当に久しぶりね」
「ああ」
「あんまり見た目が変わってなかったから、本通りでぶつかった時、すぐわかったわ。でも、私のこと知らないって言うし、がっかりしちゃった」
そう言うと彼の右手の甲に目をやる。
亮二はそれには答えず、コーヒーを一口飲んだだけだった。
博子は余計なことを言ってしまったかな、と後悔した。
当然だが、一言一言にナーバスになってしまう。
「子どもはいるのか?」彼は話題を変えた。
「ううん」
この前までお腹にいたんだけれど、そう言いかけてやめた。
亮二には関係のないことだし、話したからといってどうにかなるわけでもない。