はぐれ雲。
一人になった博子はそっとメモを手にとった。
ぶっきらぼうな字。
性格と一緒だな、と思って思わずクスッと笑ってしまう。
<ねぇ新明くん。
行けるわけないじゃない。もう会わないほうがいいに決まってるの、私たち>
博子はメモを折りたたんで、バッグに無造作に入れた。
『会えないか、会ってくれないか』
亮二の言葉が頭の中を何度も回った。
<そんなの無理よ、絶対に>
夫は警察官なんだから、妻の自分はそんな軽々しいことをしてはいけない。
暴力団幹部と関わってはいけない。
それがたとえ、どれだけ大切に想っていた人でも。
そう何度も何度も言い聞かせた。
でも博子は知っていた。
そんなのは言い訳だと。
本当は、もう一度亮二に会ってしまうと、もっと会いたくなるとわかっていたから。
達也の立場云々よりも、
亮二の立場云々よりも、
博子自身が、亮二に会いたくて会いたくて仕方なくなる。
それが何よりも怖かった。
重い足取りで喫茶店を出ると、博子は空を見上げた。
何もない青一色のその澄み切った大空を、飛行機雲が一本、真っ二つに引き裂くように駆け抜けていった。