はぐれ雲。

亮二から渡されたメモ。

ゴミ箱に入れたはずなのに。

捨てられなかった。

紙くずにはできなかった。


初めての彼からの手紙だったから。

しゃがんでそのメモを手にとると、涙がこぼれそうになった。

「…新明くん」

絞り出すように彼の名を呼んだ。

<なぜ今なの?どうして今になってこんなにあなたが恋しいんだろう。どうして忘れてしまえなかったのだろう。あの頃、あなたを想うだけで幸せだったのに。離れ離れになってからずっと今まで、あなたを想えば想うほど、余計に辛くなる>

博子は必死に涙をこらえると、バッグを手に立ち上がった。

「新明くん、さよなら…」

そう呟いて手を改札機に伸ばした瞬間、突然横から手首をつかまれた。

とても強い力で…

まるでこのまま手を引かれて、遠い世界に連れて行かれるような、そんなとても強い力で。


博子は一瞬自分をつかむその手に、蝶を見た気がした。



「どうしておまえはいつも俺を待たせるんだ」

それは息を切らせた、新明亮二だった。

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