はぐれ雲。
それ以降の亮二の剣道はますます磨きがかかり、大会では何度も優勝し、圧倒的な強さを誇った。
しかし表彰台にあがった彼の顔に、一度も笑顔が見られないことに彼女は気付いていた。
なぜか胸が締め付けられた。
博子と真梨子は学校からの帰り道、川沿いの土手の上を歩くのが日課だった。
川面がきらきらしていて、風がよどむことなく吹き抜けるのがとても気持ちいい。
通学帽を脱いで、髪を風にさらすのが好きだった。
頬にまとわりつく髪を、指ではらいのける仕草がしたくて。
どことなく、大人になったような気がしたから。
小学校高学年の女子とはそういうものだ。
「オトナ」に憧れる。
広い河原にはテニスコートや小さなグラウンドが整備され、遊歩道がゆるやかに続く、小学生にとっては格好の遊び場だ。
博子がいつものように土手を真梨子と帰っていると、ふと目をやった先にいつもは誰もいないテニスコートの脇のベンチに、見覚えのある顔が寝転がっているのを見つけた。
「真梨ちゃん。ごめん、先に帰ってて」
「え?博ちゃん?」
きょとんとする親友を置いて、彼女は急な斜面をかけおりた。
思ったよりも急で何度か草に足をとられ、こけそうになる。
ランドセルの中の筆箱が、ガチャガチャと音を立てた。
博子が向かう先に目をやった真梨子はニヤニヤ笑いながら、「バイバーイ」と叫ぶ。
あとでからかわれるだろうな、そう思った。