はぐれ雲。
「家まで送ろう」
亮二は店を出ると、車のキーを取り出した。
「いいの。まだ終電あるし。ここでいいわ」
店の前で博子はそう言った。
「楽しかった。ありがとう。いっぱいごちそうになっちゃって」
「ああ、よく食ったな」
「いいじゃない。すっごくおいしかったもの」
二人の目が合うも、すぐにお互いの顔からその笑みが引き潮のように消えていく。
「あの…じゃあ私これで」
「ああ」
「おやすみなさい」
彼女は駅に向かって歩き出した。
振り返らない、そう決めて唇をキュッと結ぶ。
<もうこれで最後。さよなら、新明くん>
「博子」
亮二の声が背後から聞こえる。
<振り向いちゃだめ>
けれど…
「またな」
その亮二の言葉に、博子は思わず振り返ってしまった。
<また?また会えるの?私たち、また会ってもいいの?>
亮二がポケットに手を突っ込んだまま、こちらを見ている。
<そんなこと、できるわけないじゃない。
私、まだあなたのこと忘れてなかった。
そんな気持ちで会えない。
もう会わずにはいられなくなるのが、怖いのよ、私…>
切なくて切なくてどうにかなりそうだった。
「だめよ、もう。さよなら…」
その声がかすれた。
彼にまできっと届いていないだろう。
博子は小走りで駅に向かった。
人通りの少なくなった通りに、ヒールの音が響きわたる。
早くこの場を立ち去りたかった。
もう一度振り返ったら、間違いなく亮二の胸に飛び込んでしまいそうだったから。
彼は彼女が見えなくなるまで、その場に立っていた。
「亮二さん、お疲れ様でした」
背後から若い男が二人現れた。
「浩介、車をまわせ」
亮二はキーを金髪頭の男に向かって投げた。
男はそれを受け取ると、駐車場に走っていく。
残ったもう一人の若い男が、博子が去った方に目をやりながら訊ねた。
「うまくいきそうですか」
「さあ…な」
彼はそう言うと煙草に火をつけた。
亮二は店を出ると、車のキーを取り出した。
「いいの。まだ終電あるし。ここでいいわ」
店の前で博子はそう言った。
「楽しかった。ありがとう。いっぱいごちそうになっちゃって」
「ああ、よく食ったな」
「いいじゃない。すっごくおいしかったもの」
二人の目が合うも、すぐにお互いの顔からその笑みが引き潮のように消えていく。
「あの…じゃあ私これで」
「ああ」
「おやすみなさい」
彼女は駅に向かって歩き出した。
振り返らない、そう決めて唇をキュッと結ぶ。
<もうこれで最後。さよなら、新明くん>
「博子」
亮二の声が背後から聞こえる。
<振り向いちゃだめ>
けれど…
「またな」
その亮二の言葉に、博子は思わず振り返ってしまった。
<また?また会えるの?私たち、また会ってもいいの?>
亮二がポケットに手を突っ込んだまま、こちらを見ている。
<そんなこと、できるわけないじゃない。
私、まだあなたのこと忘れてなかった。
そんな気持ちで会えない。
もう会わずにはいられなくなるのが、怖いのよ、私…>
切なくて切なくてどうにかなりそうだった。
「だめよ、もう。さよなら…」
その声がかすれた。
彼にまできっと届いていないだろう。
博子は小走りで駅に向かった。
人通りの少なくなった通りに、ヒールの音が響きわたる。
早くこの場を立ち去りたかった。
もう一度振り返ったら、間違いなく亮二の胸に飛び込んでしまいそうだったから。
彼は彼女が見えなくなるまで、その場に立っていた。
「亮二さん、お疲れ様でした」
背後から若い男が二人現れた。
「浩介、車をまわせ」
亮二はキーを金髪頭の男に向かって投げた。
男はそれを受け取ると、駐車場に走っていく。
残ったもう一人の若い男が、博子が去った方に目をやりながら訊ねた。
「うまくいきそうですか」
「さあ…な」
彼はそう言うと煙草に火をつけた。