はぐれ雲。


「あ、あのっ…新明くん?」

黒いランドセルを枕にして目を閉じる亮二に、博子は遠慮がちに声をかけた。

「……」

反応がないので、もう一度恐る恐る呼んでみた。

「なんだよ」

ぶっきらぼうな声が、次は間髪いれずに返ってくる。

そしてちらりと博子を見ると、また目を閉じる。

「何してるの」

「何だっていいだろ」

目を開けることすら面倒だ、という感じだ。

「あの、私、ずっとお礼言おうと思ってて…」

「……」

「ほら、前に6年の男子に文句言われたでしょ。その時、かばってくれたのに。私、ありがとうって言いそびれて…」

それでも彼は黙っていた。


<ちょっと、何か言ってくれないと気まずいじゃない>

沈黙が続く中、博子は早くその場を離れたくなった。


「…あの、今日道場の練習日だよね。じゃあ、またあとで」


こんなやつに、わざわざお礼なんて言わなきゃよかった、と正直思った。

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