はぐれ雲。
週に1回、それが、2回3回となり、いつのまにかほとんど毎日、二人は放課後を河原で過ごすようになっていた。

正直、亮二とは会話はあまり成り立たない。

博子が話すのを空を見ながら黙って聞いているだけだ。

「聞いてる?」

「おまえさ、よくそんなに口が動くよな」

「うん。話したいことがいっぱいあるんだ。新明くん、全然しゃべんないし」

「は?まだしゃべんのかよ。ペラペラうるせえな。口から生まれてきたのかよ」

「なにそれ」

二人は顔を見合わせて笑った。警戒心の解けた彼の笑顔を見るたびに、胸がときめく。

博子はもう亮二のことが好きになっていた。

あの冷たい目が嫌だったのに、子どもらしくない陰のある瞳が怖かったのに。

でも今は違う。

冷たく見えたのは、彼の目がとてもきれいで澄んでいるからだ、とわかったから。

人前では普段笑わない彼が、自分には笑顔をみせてくれる。

自分だけが独り占めしているような気がして、特別なんだと思えて、嬉しくて仕方なかった。

そんなふうに、無邪気に思っていたのに。
ずっと、こんな日が続くのだと…

でも春は容赦ない季節。

亮二は小学校を卒業し、同時に剣道教室も卒業した。

そして、河原のベンチにも来なくなった。

なのに博子だけがランドセルを背負い、通学帽をかぶっている。


川面を撫でる春風が、彼女の頬も撫でながら言った。

まるで嘲るかのように、意地悪に。

まだまだ君は子どもなんだよ。
亮二への想いは、ただの子どもの淡い恋だったんだよ。
ほら、彼はもうここには来ないじゃないか。
これから先も来やしないよ。きっとね。


桜の幸せそうな色が憎らしく感じられたのは、この時が初めてだ。


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