はぐれ雲。
初めて加瀬達也と葉山博子が出会ったのは、大学の入学式だった。
新入部員勧誘のために達也は「剣道部」と書かれたプラカードを持って、校門に立っていた。
スーツ姿の新入生たちが、サークル紹介パンフレットを片手に校門を入ってくる。
一歩足を踏み入れると、
「ちょっと、ちょっと」と待ってましたとばかりに声をかけられる。
どこの部も、サークルも、ひとりでも多くの新入生を獲得しようと必死だった。
そのために、いろいろなパフォーマンスで人を集めるところもある。
中でも、ラグビー部とアメフト部は在校生たちにとっても楽しみだった。
だが、今年は達也は見に行けない。
どこの部でも、新入部員獲得は2年生の役目だ。
達也も数人の2年生部員と胴着を着て、新入生に声をかけている最中だった。
「入ってくるかなぁ、かわいこちゃん」
同級生のアキラが、目を輝かせながら行き交う新入生を見る。
「さあな~ナンパみたいにして入ってくるもんじゃないだろ」
きょろきょろする親友に達也は笑いながら答えた。
そんな時、アキラがふと目を向けた先にニ人組みの女の子を見つけ、いそいそと彼女たちに近付いていく。
「ねえねえ、もう入る部とか決めた?」
紺色の袴をまるでドレスのようにつまんで、彼はおどけて言った。
それを見て「やれやれ」と苦笑いしながら、達也も彼女たちのもとに行く。