はぐれ雲。
「あ、君ももちろん入ってくれるよね?」
アキラが思い出したように蚊帳の外、といった感じのもう一人の女の子に視線を投げた。
真梨子もそっと彼女の背中を押す。
「ねぇ、マネージャーからでも始めたら?いつまでも逃げてちゃダメだと思うよ」
「でも、私はちょっと…もう剣道は…」
頬にかかる黒髪を撫でながら、彼女もまた困り顔だった。
達也はその時初めて彼女の顔をしっかりと見て、息を呑まずにはいられなかった。
次の瞬間には、もう目が離せなくなっていた。
華奢な体に、小さな顔。
肌が白いせいもあって、黒目がちの瞳がとても印象的だ。
突然のことに戸惑い、突然ピンク色を帯びた頬、涼やかな口元が彼の心を打った。
彼女を作り出す全ての要素が、達也の目を奪ってしまった。
そして周りにいる人間を和ませてくれるような、優しい雰囲気を持っている。
「あの、君さ」
そんな彼女に達也は声をかけた。
自分でも驚くほど、次から次に言葉が出てくる。
「今無理に決めなくてもいいよ。入りたくなればいつでもいいんだし。でも、名前だけ聞いててもいいかな。俺は加瀬って言うんだけど…あ、さっきこいつが言ったっけ…」
そう言って、アキラを親指で指す。
「どうかな、名前教えてくれないかな」
「……」
それでも彼女は何も言わなかった。
「あっ、しつこく勧誘とかしないからさ」
アキラがしかめっ面で達也を小突いた。
「勧誘しなくてどうすんだよ」と。
「いいから、黙ってろよ」
おっ!というような顔でアキラは達也を見ると、ニヤリとした。
それを無視して彼は続ける。
「やっぱりダメ、かな…?」
黒目がちな瞳が達也を見る。
見つめ返すと、その彼女の目に吸い込まれてしまいそうな気がした。