はぐれ雲。
「…何だって?」
「そうやって、その人自身を見ないで決め付けるのは、あなたらしくない」
「何を言ってるんだ!」
「彼らにも彼らなりの正義があると思う」
「博子!」
彼は完全に苛立っていた。
しかし、ひるむことのない目の前の妻に正直愕然とした。
「あなたの言う通り、法に触れることを彼らは実際にしてる!
でも、そこに入らなければ生きていけなかった人たちのいきさつを、あなたは知ってるの?
知らないでしょ?
悪に屈した弱い人だって、そう思うだけかもしれない。
だけど、あの人たちはああやって寄り添わなければ、生きていけなかったの。
私は、彼らなりにあの世界での正義を全うしてると思う。仲間を思ってかばい合って、助け合って…生きていくために組織を守るのは、達也さんも同じじゃない。
だから、そんな言い方をしないで」
真っ赤な顔をして、彼女は睨むように夫を見た。
こんな妻を見たことがない。
いつも穏やかで、自分の言うとおりに動き尽くしてくれる、そんな博子しか彼は知らない。
この「強さ」はどこからくるものなのか…
<新明亮二か…あいつのために君は…>
嫉妬が全身を駆け巡った。
この身を焦がすほどの今までにない激しい感情が、体を熱くする。
達也は、とうとう声を荒げた。