はぐれ雲。
「バカなことを言うんじゃない!
今の君はどうかしてるよ!
彼らのせいで実際に困っている人たちが大勢いるんだ。悲しい思いをしている人たちがいるんだ。君はただ単に、新明にうまく言いくるめられてるだけじゃないか!!」
「違う!新明くんはそんなこと一言も言わなかった。自分たちを正当化するようなこと、一言だって口にしなかったわ!
私が勝手にあの人たちを見て、そう思っただけよ。正義にもいろんな形があるんだって」
「あいつを、新明をかばうのか?」
「かばう?ううん、かばってるわけじゃないの」
「…じゃあ、どうしてそこまで言えるんだ」
「ただ…ただ今でも信じられなくて。
私の知ってる彼は暴力団に入るような人じゃない。何回か会ってそう思った、彼は変わってないって」
落ち着きを取り戻した博子は、静かに続けた。
「でも現実は違うのよね。私の知らないところで、実際に人を悲しませたり苦しめたりしている。どんな事情があったにせよ、彼は反社会組織といわれる集団の一員よ。
それを認めたくなかったのよ、私自身が。
彼はそんなことする人じゃないって。
だから…彼らにも彼らなりの正義があるんだって…理由があってそこにいるんだって…
決してあなたを否定したわけじゃないの。
これだけはわかって…」
達也はため息をつくと、子どもに言い聞かせるように言った。
「いいかい、君は世間を知らないんだ。大学を卒業して、すぐに結婚して、社会に出た経験もない。だから人に言われたことをそのまま受け取ったり、感じてしまうんだ。新明に何を言われたか知らないが、少し落ち着いて考えるんだ」
そっと彼女の肩に手を置くと、博子は、今にも泣き出しそうな顔でうつむいた。
「騙されちゃいけない」
「騙される?
そうね、確かに私は世間知らずよ。
でも、自分が何を言ってるかってことくらい、わかってるわ」