はぐれ雲。
「就職もやっと決まったってのに、肝心の彼女がいないなんて、冴えねえなあ」
アキラのぼやきに、我に返る。
「おい、飲みすぎじゃないのか」
「そうだ、達也。博子ちゃんとはどうなんだよ。あの子かわいいし、愛想もいいし、話しててすっげえ楽しいんだけどな。誰にもなびかないっていうか、男嫌いっていうか…何回か誘ったけど、あっさりかわされちゃったなあ」
「誘った?おまえ誘ったのか?」
不覚にも、声が上ずってしまった。
「…んだよぉ、おまえら別に付き合ってんじゃないんだろ?いいじゃん。でもさーやっぱ違う大学に彼氏いるんだろうなーでなきゃ、このアキラ様がほっとかねぇー」
達也は作り笑いをしながら、一応相槌を打っておいた。
そうだ、確かに博子とは何もない。
何もないが、彼女に近付こうとする男はとても気になる。
だからといって、自分が博子の気持ちに近づこうとすればするほど、スルリと逃げてしまう。
ずっと手をこまねいている自分がいる。
長い間…
いつだったか、随分前に部の飲み会で真梨子に冗談まじりに聞いたことがある。
「なあ青木。あのさ、葉山って、他の大学に彼氏いるの?」
「んん~?達也先輩、博子のこと気になります?」
グラスを口につけたまま、いたずらっ子のような目で隣の先輩を見る。
「いや、別にそういうわけじゃないけど。ほら、あんまり浮いた話聞かないし」
うまい言い訳が見つからず、達也は頭をかいた。
「ふーん?本当にぃ?」
真梨子は酔った赤い顔で達也をのぞきこんだが、すぐに真顔に戻ると向こうでアキラにからまれている博子に目をやった。
アキラが真っ赤な顔をして、博子に酒をすすめている。
それを笑いながら彼女は何とかかわしている。