はぐれ雲。
「ありがとう」
ホッとしたように博子は笑って頭を下げた。

「お願いします」

「泣かないんだね」

真梨子は大切そうに離婚届をバッグにしまうと、そう尋ねた。

「うん。だって私が泣くのはおかしいでしょ」

みるみる目の周りが赤くなっていくが、博子は必死に涙を見せまいとしていた。

「自分で蒔いた種だもの、自分で摘み取らなきゃね。自業自得って言うのよね、こういうの」

「これからどうするのよ」

「わからない。とりあえず、達也さんを自由にしてあげなくっちゃ」

「…新明先輩とは?」

真梨子は遠慮がちに聞いてみた。

「もう会わない」

博子は目を閉じて辛そうに言った。

「ねぇ、真梨子。同時に二人の人を愛しちゃいけないって、こういうことがあるからなのね。
罰が当たって、やっとわかるなんて」

そんな寂しそうな言葉に、真梨子はいつもの明るい笑顔を向けた。

「よしっ!今日は何かおいしいものでも食べにいきますか。おごっちゃう!
どうせろくなもの食べてないんでしょ?
これ以上やせたら、骨と皮だけじゃない。
そうなったら、もう女としての魅力、ゼロよ」

その言葉に、やっと博子も笑顔を返した。
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