はぐれ雲。
「どうかされましたか?」

目の前の男性が覗き込んだ。

「あ、いえ、なんでもありません」

我に返った達也は、額から汗が滲み出ていることに気付いた。

慌てて手のひらを当てる。


「おーい、みんな。今日は特別にお兄さんが剣道を教えてくれるぞ」

小学生たちが歓声をあげた。


一時間ほど子どもたちに素振りなどを教えると、彼は道場をあとにした。

足早に署を出ると、冷たい風の中、達也は泊まっているビジネスホテルへ向かう。


顔が火照っていた。

冷たい空気にさらされて、余計に熱を帯びたように感じ、心臓もドクンドクンと大きく音を立てる。

フロントで鍵をもらい、部屋に入る。

スーツも脱がずに、固いベッドに仰向けになった。

なぜ今まで気が付かなかったのか。

どこかで聞いた名前だと思っていた。

新明亮二。

確かに、彼と以前会っていた。

会っていた…

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