はぐれ雲。
「博子は…もう恋なんてしたくないんじゃないかなぁ」

独り言のようにも聞こえた。

「どうして?」と達也がすかさず聞く。

真梨子はハッと我に返ると
「え?あの…博子、オクテというか、男嫌いというか…」とぎこちなく笑った。

「中、高とそれなりにモテてたんだけど、ことごとくフッちゃって。バカですよね~もったいない。あれで彼氏いない暦と、年齢が一緒ですよぉ。合コンとか誘ってみるんですけど、行かないって言い張るんですよ。強情なんです、ああ見えて。一回だけ無理矢理コンパに連れて行ったことあるんですけど、しゃべんないし、愛想悪いし、すぐ帰っちゃって。だから彼氏なんてできっこないですって」

ごまかしているのが、バレバレだ。

「先輩、チャンス、チャンス!あの子の男嫌いを直してやってください」

そう言って、真梨子は手に持っていたグラスを空にした。

本当にそうなんだろうか、と達也は博子を目で追う。


彼女の中には、誰かがいる。
好きな人、いや忘れられない人…
その人への想いを守るために、心を硬く閉ざしているのではないだろうか。
うまく言えないけれど…

とにかく、それは決して胸が躍るような恋ではないように思える。

恋をして、辛い目に遭ったのだろうか。

もう恋をしたくないと思うほどの、悲しい出来事があったのだろうか。

達也はもう一度博子に目をやった。

それでも、彼女が誰を想っていようと、
どんな恋をしていようと、

笑顔の博子が、達也はこのうえもなく好きだった。

その黒目がちな瞳でいつか自分を見て欲しい、そう願わずにはいられなかった。



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