はぐれ雲。
「今日は青木と会うはずだったよね」

助手席から運転席の達也の顔を見ると、いつになく怒っているように見えた。

赤信号で止まると、彼は博子を見た。

病院からの帰り道。

真梨子と別れた後、意識が遠のいた博子は、通行人の通報で救急車で近くの病院に運ばれ、過換気症候群と診断され、処置を受けた。

連絡を受けた達也が迎えに来てくれたのだ。

「真梨子、ね。今日は用事があったみたいで、すぐに帰ったのよ。仕方ないわよね、急に私が呼び出したんだから」

「……」

彼の見透かすような目が耐えられず、博子は前方に目をやった。

「あ、青よ、信号」

ため息をつくと、達也はアクセルを踏んだ。

「青木と何かあった?」

「やだ、あるわけないじゃない」

どことなく不自然な笑顔になってしまう。

「それならいいけど」

彼が納得していないのは明らかだった。


ハンドルを握る彼を何度も盗み見した。

「博子」

視線を前方に向けたまま、達也は言う。

「誰に何と言われようと、俺と一緒にいることが間違いだなんて思わないでほしい」

達也は真梨子が彼女に何を言ったのか、だいたい想像できたのだろう。

だからこう言うのだ。

二人の乗った車は止まることなく、青信号を進んでいく。

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