はぐれ雲。
亮二は林のくわえた煙草に火をつけた。

自分のふかした煙草に、彼は煙たそうに目を細める。

「今回は何とかしのげたな」

「ご迷惑をおかけしました」

亮二は頭を下げる。

リサの売春斡旋の件における新明亮二の関与は、証拠不十分で見送られた。

博子からの警察情報漏洩疑惑も、リサの嫌がらせということで片付いた。

「おまえが警察で話を聞かれた時に、捜査一課の桜井ってやつはいたか?」

「いえ、四課の連中だけでしたが」

「ならいい」
林はごまかすように、煙を吐く。

亮二は以前言われたことを思い出した。
博子に近付くように言われた際、捜査一課の一人が林を追っている、と。

「林さん?」

「それよりダム建設の発注の件はどうなってる」

「…ぬかりありません。県会議員にも、県職員にも手をまわしています」

「そうか、それならうちの建設会社に決まりそうだな」

「はい」

「最後まで手ぇ抜くんじゃねぇぞ」
ソファーにのけぞると、林は足を組み替えた。

「わかっています」



前田とレンはファミレスのボックス席で、向かい合っていた。

リサは裁判が始まるまで、留置場生活を余儀なくされる。

「リサに会ってきたよ」

「そっ、それでリサさんは!?」
身を乗り出してレンは聞いた。

周りの客の視線が、一気にレンたちに集まる。
咳払いを一つすると、レンは声を低くして言った。

「俺も会いに行っていいですか」

相手の男は眉間に皺を寄せて、首を横に振った。

「それは無理だろう。
リサは今は誰にも会いたくないそうだ。
身内の私に対しても、はっきり言ったくらいなのに。ただ、新明亮二には会いたい、そう言うんだ。泣きながら…」

「そんな…」

「かわいそうに、あんなにやつれてしまって…」

そう言って、前田は目頭を押さえる。

「リサがあんな目に遭ってるというのに、新明は何のお咎めもなし。こんなことがあるか」

「亮二は警察で事情聞かれたんでしょ?」

「ああ、でも証拠がないらしい。
リサに売春斡旋を指示したという証拠がね。
それにリサ自身も彼の関与を否定しているんだ」


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