はぐれ雲。
「そんなことがあるかよ!
口止めされてるに決まってんじゃん!」

「その通りだ。でも証拠がない限り新明を罰することはできない。今の日本の法律ではな」

「…弁護士、弁護士たてよう」

「もうつけてるよ、私の知り合いの最高の弁護士をね。でも彼が言うんだ。打つ手がないって。
それに我々が下手に騒ぐことで、検察や裁判官の心象が悪くなっても困るって」

「じゃあ、どうしようもないってことかよ」

「…ああ」

「…なんでだよ」

「全てあの新明のせいだ。あいつがリサを利用するだけ利用して、捨てた」

「くっそう…」

「許されるもんなら、この手で殺してやりたいよ」

前田は睨むように自分の掌を見つめた。

その目にレンは鳥肌がたつ。

「…あの、前田、さん?」
恐る恐る声をかける。

「あ、あぁすまない」
彼は我に返ったように返事をすると、諦めたような笑みをレンに向けた。

「つい物騒なことを口走ってしまった」

「いえ」

「だが、リサを思うと気の毒でな。
罪を償って帰って来ても、またあの新明のところに戻るだろう。たとえリサがそれを望まなくても。あいつらはリサを手放さない、絶対に。骨の髄までしゃぶりつくして、捨てる」

「まさか…そんな。俺が守りますよ、リサさんのこと」

「城田くん、世の中そんなに甘くない。
ああいう世界は、一度足を踏み入れたら、そう簡単に抜けられるもんじゃない。新明が死なない限り、リサが救われることはないんだよ。まさに奴隷だよ」

「奴隷…俺がそんなことさせない」

<リサは俺の奴隷になるんだよ。
亮二なんかに取られてたまるかよ>

「どうする気だい?城田くん」

「…う…それはこれから考えるけど…」

前田は、期待できない、といったように溜め息をついた。

その態度にレンがムッとする。

「お…俺がやるよ」

「え?」

「俺が亮二を殺る」

「できるわけないじゃないか、そんなこと」

バカにしたように前田は笑った。

「できるさ、あんたの協力があれば、の話だけど」

声が震えていた。
亮二のあの刺すような目を思い出すと、怖くてたまらなかったが、リサが自分のものになるなら、一瞬の恐怖にくらい耐えてみせる。

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