はぐれ雲。
しかし、直人と浩介の顔は冴えない。
その原因は、やはりその亮二だ。

組の者の前ではいつもと変わらないクールで厳しい彼だったが、直人と浩介の前では、以前に増して無口になり暗い表情をすることが多くなった。

その顔があまりにも辛そうで、二人は見ていられなかった。

博子と会わなくなって、2ヶ月が経とうとしている。


「はぁ…」

「重いため息つくなよ、浩介。俺まで気が滅入るだろ」

「そんなこと言ったって仕方ねぇだろうが。なんかさぁ、仕事と恋愛の両立って、難しいなぁって、つくづく思っちまってさ」

「おまえがそんなこと言っても、説得力ないんだよ」

「そんなことねぇよ。俺だって組に入ってからあきらめた女、何人かいるんだぜ。やっぱ、生きてる世界が違うんだろうな」

コートのポケットに手を突っ込み、首をすくめながら浩介は呟くように言った。

夜道を二人で歩きながら、亮二のことを考える。

白い街灯が、ますます寒さを感じさせる。

「亮二さんにとって、博子さんは特別だった」

「ああ、そうだな」

「このまま終わっていいものなのかな」

「いいはずねぇだろ」

「そうだよな」

「もう会えないってわかってるんだから、別れるしかないってわかってるんだから、それなりにケジメつけなきゃいけねぇよ」

「それは亮二さんだってわかってるだろう。わかっててそれができないから、辛いんじゃないのか?」

二人の脳裏に、博子に会いに行く亮二の姿が浮かんだ。


「亮二さん、オッケーっすよ」

公衆電話から博子に着信を残して帰ってきた浩介がそう言うと、彼は背を向けたまま、軽く手をあげた。

表情を見せないところが彼らしい。一体どんな顔をしているんだろう。

出て行く亮二に、浩介は満面の笑みで言う。

「いってらっしゃい」

彼は嬉しかった。
ほんの少しの時間でも、亮二が本当に好きな人と過ごせる。

自分のことのように素直に喜んだ。

「…んだよ、浩介」
そんな彼を見て、亮二は言った。

「ニヤニヤしやがって」

「え?俺?そんな顔してました?」

慌てて顔を触る。

「ったく…」
亮二は白い歯を少しだけのぞかせると、浩介の頭を叩いて出て行ったものだ。


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