はぐれ雲。
二人はクリスマス一色の街を歩いた。

特にレストランを予約しているわけでもなく、ただ気ままにファミレスで食事をして、ウィンドウショッピングやゲームセンターで時間を費やす。

学生でお金のなかった二人には、それでも十分に楽しめる。

映画を見て一通りブラブラしたあと、二人は帰りの電車に乗った。

博子の最寄の駅で、達也も電車を降りる。

「家まで送っていくよ」と言って。


二人は博子の家の近くにある土手に上がった。

空気が冷たいせいで、向こう岸に広がる街の灯りがとてもきれいに見える。

「へえ~いいね、こういうところがあって。次は明るいうちに来てみようかな」

達也はテニスコートや遊歩道を見下ろして言った。

「ずっとここを通って学校に通ってたのよ。夏なんかはここに立ってると風が吹き抜けて気持ちよくて。懐かしいわ…」

ふとテニスコートの傍らのベンチが外灯の光で浮かび上がり、視界に入ってきた。

咄嗟に博子は目を反らす。

そしてマフラーに顔をうずめた。

自分の息で、頬が温かくなる。
そうしていると、気持ちが落ち着くのだ。


「話があるんだ」

ふいに達也が博子に向き直った。

「話?」

顔をあげると、冷たい風が待ってました、とばかりに頬を撫でる。

「俺、春から警察学校に入るんだ」

「え…警察?学校?」

そう言って、驚きのあまり彼の言葉をぎこちなく繰り返す。


「うん。黙っててごめん。試験、受けたんだ。去年、一般企業から内定もらってたからどうしようか悩んだんだけど。小さい頃から夢だったんだ、警察官…」

照れたように彼は笑うが、目は真剣だった。

その目が博子の瞳を捉えて離さない。

「…どうかな、こんな俺が警察官って」

警察学校に入れば、会う回数の格段に減る上に連絡すらなかなかとれなくなる。


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