はぐれ雲。
午後9時。

亮二は直人と浩介を連れて、神園昭吾のいるホテルのスイートルームのチャイムを鳴らした。

バタバタと駆け寄る音がしたかと思うと、パジャマ姿の小さな顔がひょっこりのぞく。

「おぉ?」

緊張していた浩介の口から、思わず声が漏れる。

「おじいちゃん!来たよ!この人たちのこと?」

「あぁ、そうだよ」

神園が杖をつきながら、ドアを大きく開いた。

「入れ」

三人はリビングに通された。

先ほどの女の子がしげしげと亮二たちを見つめる。

「ねぇ、どうしておじいちゃんの指は短いの?」

「え?」

不意を付かれ、亮二は思わずその子を見た。

「おじいちゃんが、言ったのよ。もうすぐお兄ちゃんたちが来るから、その人に聞いてごらんって」

「あぁ」

思い出したように、彼は頷く。

「ねぇ、どうして?なんでおじいちゃんの指は短いの?あたし、起きて待ってたんだから」

期待に満ちた真剣な目が向けられる。

「あ、いや…」

神園夫妻も、この幼子の母である神園の娘も、苦笑いで亮二から目をそらせる。

「これはこれは…参りましたね」

仕方ないなと言うように笑うと、彼はその子の前にしゃがみこんだ。

大きくて丸い瞳があまりにも無邪気で、何と言っていいのかわからない。

こんなに幼い無垢な子どもに、自分たちの世界はあまりにも暗くて、酷な世界だ。

悩んだ末、亮二は優しく微笑みを向けた。

「名前は?」

「さやか」

「そうか。とてもきれいな名前だ」

「でしょ?おじいちゃんが付けてくれたんだって」

「ああ、本当にいい名前だ」

「ねぇ、お兄ちゃん。どうしておじいちゃんの指は短いの?みんな教えてくれないの」

「それは…」

「ねぇ、どうして?」

亮二は小さく唸ると、静かに言った。


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