はぐれ雲。
「ふうん…」
よくわからない、そんな顔をして少女は頷く。
亮二は白い歯を見せて、そんな幼子に笑いかけた。
「さあ、さやか。もう寝ないとな。
明日はおじいちゃんと遊園地に行くんだろ?」
「えー、まだおじいちゃんと遊びたい」
「おじいちゃんはもう行かなきゃならないんだ。その代わりにおばあちゃんがここに泊まって、一緒に寝てくれるから、な?明日までいい子にしてるんだぞ」
「はぁい」
ふてくされたように、さやかは母親に連れられて寝室へと入っていった。
その後ろ姿を見送ると、優しい顔だった神園の顔がヤクザの顔へと変わる。
「行くぞ」
神園の後に、亮二、直人、浩介が続く。
長い廊下を歩き、エレベーターの呼び出しボタンを亮二が押すと、神園が言った。
「うまいこと言ったな」
「いえ。口からでまかせもいいところです。それに子どもは、どうも苦手で」
「もう思い残すことはないんだな」
「一切、ありません」
「俺についてくる覚悟ができた、そう解釈していいんだな。後悔するなよ」
「はい。どうかよろしくお願いいたします」
エレベーターの扉が、音もなく開く。
四人が乗り込むと、再び静かに扉は閉まった。
そこから新明亮二の、頂点への道のりが始まった。
全てを捨てた男の、賭けのような人生が幕を開けた。
『ごめんね、何もしてあげられなくて…』
『おまえのせいじゃない。全て俺の望んだことだ』
静かに閉じた目がゆっくりと開いた時、亮二のあの瞳が、鋭い光を放ち始めた。