はぐれ雲。
「おかえりなさい」

少し腫れた目で、博子は出迎えた。

そんな彼女を見て、達也は安堵した笑みを浮かべる。

「おかえり」

「え?」

どういうこと?そんな顔で目を丸くする妻を見て、彼は笑う。

「俺のところに帰ってきてくれたんだから、おかえり…それで間違ってないだろ?」

「…えぇ」

「よかった、君が帰ってきてくれて」

正直あの後、彼女を亮二のもとに行かせたことを後悔した。

不安でたまらなかった。

もしかしたらもう博子は帰ってこないかもしれない、そうも思った。

「じゃあ、ただいま…これでいいのね、私」

しかし、今彼女は達也の胸に寄り添い、ささやくようにそう言う。

<本当によかった…>

達也はもう一度言った。

「おかえり」

二人はクスクス笑う。

「人が見たら何のことかわからずに、変だって思うわね、きっと」

「ああ、そうだね」


<博子、帰ってきてくれて、ありがとう。
新明に負けないくらい、俺は君を愛するよ。
大切にする、幸せにする。
ただ…
どうしても彼を思い出して、泣きたくなった時は無理せず泣けばいい。
俺はそれくらいの覚悟をもって、
君を愛してる、そう言ったんだから…>


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