はぐれ雲。
「直人は先方にこの件を確認してくれ」
「わかりました」
新明亮二はぶっきらぼうに書類を渡す。
「亮二さん、先代の総長の法要なんですが…」
「ああ、もうそんな時期か」
事務所の階段を下りながら、彼は次々と指示を出していく。
トップになる、そう博子の前で誓った。
与えられたチャンスを決して無駄にしない。
最初で最後の、大きなチャンスなのだから。
亮二は変わった。
周りがとまどうほどに、冷徹になった。
特にミスをした者は許さなかった。
「もうおまえは必要ない、去れ」
「すみません、亮二さん。次はうまくやります、だから…」
「何回目だ、こんな簡単なミスしやがって。仕事を覚えられないやつは、必要ない。
指を落とす価値もない」
「どうか、もう一度」
「だめだ」
周囲には冷酷だと思われていた亮二だが、直人と浩介の目にはやはり情に厚い男として映っていた。
彼らだけは知っている。
自分の許を去らせた者たちに、毎月金を渡していることを。雇ってくれそうな会社があれば、面接を受けにいくように勧めていることも。
亮二は言う。
「ヤクザにむいてないやつは、早くカタギに返してやらねぇと」
しかし一度ヤクザの道に足を踏み入れた人間が、突然カタギの世界に放り込まれたら、まずは一人では生きていけない。
仕事もない、金もない。
亮二はそれを知っている。
だからこそできるかぎりのことをして、カタギに戻らせたい、そう思っているのだ。
彼自身ははますます悪に手を染めていても、心までは染まりきれない、二人の弟分はそんな気がしていた。
事務所の階段を下りきって外に出ると、眩しい太陽の光が目に射し込んでくる。
思わず立ち止まって目を細めると、彼は胸元から出したサングラスをかけた。
ふと、どういうわけか今まで気にも留めていなかった自動販売機に目が行く。
「亮二さん?」
歩みを止めた彼に、直人が声をかけた。
「ちょっと待て」
そう言って、ポケットから小銭を取り出す。
「おまえらも、好きなもの買えよ」
「ラッキー!ありがとうございます。何にしよっかなー」
浩介が嬉しそうに、何台か並ぶ自販機のジュースを一通り見ていく。
「わかりました」
新明亮二はぶっきらぼうに書類を渡す。
「亮二さん、先代の総長の法要なんですが…」
「ああ、もうそんな時期か」
事務所の階段を下りながら、彼は次々と指示を出していく。
トップになる、そう博子の前で誓った。
与えられたチャンスを決して無駄にしない。
最初で最後の、大きなチャンスなのだから。
亮二は変わった。
周りがとまどうほどに、冷徹になった。
特にミスをした者は許さなかった。
「もうおまえは必要ない、去れ」
「すみません、亮二さん。次はうまくやります、だから…」
「何回目だ、こんな簡単なミスしやがって。仕事を覚えられないやつは、必要ない。
指を落とす価値もない」
「どうか、もう一度」
「だめだ」
周囲には冷酷だと思われていた亮二だが、直人と浩介の目にはやはり情に厚い男として映っていた。
彼らだけは知っている。
自分の許を去らせた者たちに、毎月金を渡していることを。雇ってくれそうな会社があれば、面接を受けにいくように勧めていることも。
亮二は言う。
「ヤクザにむいてないやつは、早くカタギに返してやらねぇと」
しかし一度ヤクザの道に足を踏み入れた人間が、突然カタギの世界に放り込まれたら、まずは一人では生きていけない。
仕事もない、金もない。
亮二はそれを知っている。
だからこそできるかぎりのことをして、カタギに戻らせたい、そう思っているのだ。
彼自身ははますます悪に手を染めていても、心までは染まりきれない、二人の弟分はそんな気がしていた。
事務所の階段を下りきって外に出ると、眩しい太陽の光が目に射し込んでくる。
思わず立ち止まって目を細めると、彼は胸元から出したサングラスをかけた。
ふと、どういうわけか今まで気にも留めていなかった自動販売機に目が行く。
「亮二さん?」
歩みを止めた彼に、直人が声をかけた。
「ちょっと待て」
そう言って、ポケットから小銭を取り出す。
「おまえらも、好きなもの買えよ」
「ラッキー!ありがとうございます。何にしよっかなー」
浩介が嬉しそうに、何台か並ぶ自販機のジュースを一通り見ていく。