はぐれ雲。
「車に乗せぇ」

桜井の言葉に我に返った達也が、林の腕をつかんだ。

その時一瞬目が合ったが、無言で警察車両に彼を連行する。

後部座席に座らせると、達也自身も林の隣に座る。反対側のドアからは桜井も乗り込んできた。

間に挟まれた林は、フンと鼻で笑うと、若い刑事の横顔を見た。

「桜井の部下か。名前は?」

まっすぐに前を向き、達也は厳しい顔つきのまま何も言わなかった。

「なんだよ、愛想のないやつだぜ」

「ええ、当然ですよ。自分は新明亮二の同志であり、ライバルなんですから…」

「あいつの名前を出すなと言っただろ!」

剥き出しの憎悪がまた姿を現す。

手錠がかかった手で激しく膝を打つたびに、カシャンカシャンと冷たい音がする。

「…静かにしてください」

前方をみたまま、達也は落ち着いた口調で言った。

桜井も、腕組みをしたまま無言で目を閉じている。

「亮二のクソ野郎が!死んで当然…」

その時だった。

「黙ってろ!!」

林の言葉を打ち消すような鼓膜が破れんばかりの大声を、達也は上げた。

甘いマスクからは想像もできないあまりの剣幕に、林は舌打ちをしてその口を閉じる。

そして車内はサイレンの音しか聞こえなくなった。

< 391 / 432 >

この作品をシェア

pagetop