はぐれ雲。
日付が変ろうとする頃、達也は疲れきった体で官舎に続く坂道を上っていた。

青木真梨子が被害者だということでもかなり参っている。しかもまた圭条会がらみだ。

正直、身体以上に気持ちの方が重かった。

桜井はやっきになって、林哲郎が事件に関与した証拠を集めようとしている。

しかし、林が真梨子を殺したという、決定的な証拠がない。
監視カメラの映像と、林の体液が真梨子に付着していただけでは、逮捕状をとるのは難しいだろう。たとえとれたとしても、「関係はもったが、殺してはいない」、そう言い逃れることも可能だ。

いろいろと考えを巡らせていると、目の前に黒い影が立ちはだかった。

とっさに身構える。

次の瞬間、彼はのぞきこむようにその影の主に言った。

「君は…確か新明の」

「坂井浩介といいます」

金髪頭の男が神妙な顔つきで頭を下げた。

「話があるんです、ちょっといいっすか?」


浩介は少し先に停めた黒い車に達也を案内した。

運転席からもう一人男が降りてきて、「橘です」と名乗る。

浩介は後部座席を見るように達也を促した。

パワーウィンドウがゆっくり下りると顔をパンパンに腫らせた男が二人、姿を現した。

「君たちは一体何をしたんだ!?」

驚いた達也は、直人と浩介を交互に見やる。

「加瀬さん、こいつらは今あんたが追ってる事件の実行犯だよ」
と浩介が低い声でそう言った。

「なんだって?」

もう一度後部座席に目をやると、瞼が腫れていてよくわからなかったが、男たちは気まずそうに視線を足元に落とした気がした。

『林さんに言われて、青木って女の死体をホテルからスーツケースに入れて、運び出しました。俺たちがホテルの部屋に入ったときには、すでに女は死んでいました。本当はバラバラにしてから遺体を捨てるように言われてたんだけど、こわくなって、スーツケースにいれたまま、山の中に埋めました』

直人が小型ボイスレコーダーを見せた。

そこから次々に犯行の内容が語られる。

もちろん、新明亮二殺害教唆についても。

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