はぐれ雲。
「どうして俺に?」

録音された内容を全て聞き終えると、達也は訊いた。

「亮二さんの仇をとりたいからです」

直人が苦しそうに、絞り出すような声で言った。

「俺たちにとって、亮二さんはかけがえのない家族だった。本当の家族に見捨てられた俺たちには、あの人しかいなかった。そんな人を林は殺した、自分より出世しようとする亮二さんが許せない、ただそれだけの理由で」

「……」

「亮二さんの弟分として、兄貴の仇をとるには当然のことっすよ」

「俺たちが林を殺そうと思えばできないことではありません。ただあいつには一番屈辱を与えるやり方で報復したい。圭条会での地位を捨て、ムショで残りの人生をまっとうすること。出てこれたとしても、組には戻れないようにすること。カタギに手をかけたことが明るみになれば、やつは間違いなく破門ですから」

「……」

「あんたの協力が必要なんです」

「あつかましいことをお願いしているのは重々承知です。あなたを苦しめた男のためにこんな…」

直人の言葉を遮るように達也は口を開いた。

「俺は刑事だ。この件に関して、新明に対する個人的な感情を持ち込んだりしない」

「あ…ありがとうございます…!」

直人の声が若干詰まったように聞こえた。


「明日、こいつらを出頭させるんだ。上司に取り合って、俺が段取りをしておく。君たちのことも伏せておく。決して明るみにでないようにする。任してくれ」

「加瀬さん、どうか…」

「わかってる。必ず林を追い詰めてみせる。君たちのためにも、亡くなった新明のためにも、必ず」


次の日、昨晩直人たちの車に乗っていた男二人が出頭し、全てを語った。

そしてスーツケースについた指紋と彼らのものが完全に一致した。

林はもう言い逃れができないほど、周りを固められてしまった。



彼の、林哲郎の逮捕状が出たのだった。

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