はぐれ雲。
官舎に戻ると、下唇を噛み締めた喪服姿の博子が待っていた。

今日は大学時代の友人が集まり、真梨子を偲ぶ会が開かれる。彼女の両親も快く承諾してくれた。

「俺もすぐに仕度するから、待ってて」

達也は沈痛な面持ちで上着を脱ぐ。

「達也さん」
黒いネクタイに絞め換える彼の横で、博子は言った。

「ん?」
鏡をのぞきながら、彼もそれに答える。

「…真梨子ね、あなたのことがずっと好きだったのよ」

驚いて彼は妻の顔を見るが、言葉は出てこない。

「…知ってた?」

みるみるうちに彼女の顔が歪んでいく。

「博子」

「私ね、全然それに気付かなくて彼女をずっと傷付けてたの。ずっとよ、何年も…」

「博子」

達也は妻を抱き寄せた。もう彼女の泣く姿は見たくない。

今まで散々見てきたのだから。

「だから真梨子、やけになってあんな人と…。そのうえ、こんな取り返しのつかないことになってしまって。私、真梨子に会わせる顔がないのよ。今さらどんなに謝っても、許してもらえない」

博子の肩が小刻みに震える。

今回の痛ましい事件を、何とも思わないわけがない。

特に長年親友だった博子にとっては、耐え難い苦しみだ。

新明亮二の死をなんとか受け入れはじめた矢先の出来事なのだから。


彼女にとってこの一年はあまりにも大きなことがありすぎた。

悩み、苦しみ、命を絶とうと思うまでの深い悲しみと絶望感。

全てが一気に彼女に押し寄せた。


こんな細い身体でひとり、ただただ受け止めていくしかなかった。

優しくて繊細なその心が今にも折れてしまいそうで、達也は心配になる。

「大丈夫だよ、青木もわかってる。君の気持ち、わかってるよ」

「そう、かな」

「ああ」

達也は博子の髪に頬を寄せた。

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