はぐれ雲。
「見かけによらず、君は傲慢なんだね。新明の時もそうだった。全部自分が悪いと思ってる。今回の青木のこともだ、自分がみんなの人生を変えてしまったと思ってる。
でも、それは違うよ。
そんなに君はすごい力を持ってる?
他人の人生を狂わせてしまうほどの?
残念ながら、それはないよ。
世の中全てが、博子中心に動いているわけじゃない。そうだろ?彼らは君に出会おうが、そうでなかろうが、きっとどこかで命を落とす運命だったんだよ。ただ君は、その場面に出くわしただけだ」

「……」

「全てが自分のせいだなんて思うのは、傲慢だよ。自分を責める必要はないんだ、博子。
だけど、彼らのことを忘れてはいけないと俺は思う。ずっと、大切に思ってあげるんだ」

「……」

博子はしばらくじっと彼の胸に顔をうずめていた。

「わかったかい?」

「…ええ」

「わかったなら、俺にネクタイを絞めさせてくれないかな」

「あ、ごめんなさい」

博子は慌てて達也から離れた。

「遅れたらアキラたちに怒られるからね」

彼は優しく微笑むと博子を見た。

相変わらず、目が赤い。

「博子、俺が今まで間違ったことを言ったことがあるかい?ないだろ?だから…」

「あなたも、意外と傲慢」

「え?」

「間違ったこと言ったことないなんて…傲慢」

「あ、そっか」
達也は笑いながら、こめかみをかいた。


二人は今にも泣き出しそうな空の下、寄り添って青木真梨子の実家へと向かった。

在りし日の彼女を偲ぶために。

< 398 / 432 >

この作品をシェア

pagetop