はぐれ雲。
「実は、直人…」
声を詰まらせた浩介は目の前のジュースを一口飲んで、乾いた口の中を湿らせた。
「橘さんがどうしたの?」
「亮二さんがいなくなって、俺は組に残る意味がわかんなくなっちゃってさ…
ヤクザから足を洗おうって思って。
俺が組を抜けるとき、カタギになるには指は全部あったほうがいいって、あいつ…
直人が俺の代わりに指を詰めて、上層部に差し出してくれたんです」
そう言って、テーブルの上に両手を広げて置いた。
まるで見てくれと言わんばかりに。
女性のように細くて長い指が十本、きれいに揃っている。
「あいつ、亮二さんなら、きっとこうしたって…かっこよすぎるだろ?もう早速、亮二さん気取りだぜ、あいつ」
泣き笑いの浩介の手に、博子はたまらずそっと自分の手を重ねた。
「俺、何やっても鈍くさくてさ。亮二さんにも、直人にも迷惑ばっかかけて」
彼は肩を震わせた。
「でもまだ族やってる時に、亮二さんに誉めてもらったことがあるんすよ。バイクいじるのがうまいって。俺、嬉しかったぁ…すんげぇ嬉しかったぁ」
子どものように、ポロポロと彼の目から涙がこぼれ落ちる。
博子はそっと手を引いた。
「浩介くん…」
「あの人が初めてだったんすよ。
俺のそういうとこ認めてくれたの。
だからカタギに戻ったら、あの人に誉めてもらったことやろうって。そこだけは誰にも負けたくないって…そう思っ…。
ほんっとに組じゃ役に立てなかったし、むしろ足手まといだったから、俺」
鼻をすすると、浩介はもう一度コップに手を伸ばした。
「そんなことないわよ」
「え?」
手が止まる。
「足手まといだなんて、そんなこと絶対にない」
浩介は目を真ん丸にして、引いた手を膝の上に置いた。
「新明くんね、言ってたの。
浩介くんを見てると、まだ自分は根っからの悪者になったんじゃないって思えて、ホッとするんだって。彼なりにたくさん悩むことがあったんだと思う。でもあなたを見ていると、気持ちが和らいだんじゃないかな。あなたを本当の弟のように思ってるって、そう私に話してくれたの」
博子は浩介に優しく微笑んだ。
声を詰まらせた浩介は目の前のジュースを一口飲んで、乾いた口の中を湿らせた。
「橘さんがどうしたの?」
「亮二さんがいなくなって、俺は組に残る意味がわかんなくなっちゃってさ…
ヤクザから足を洗おうって思って。
俺が組を抜けるとき、カタギになるには指は全部あったほうがいいって、あいつ…
直人が俺の代わりに指を詰めて、上層部に差し出してくれたんです」
そう言って、テーブルの上に両手を広げて置いた。
まるで見てくれと言わんばかりに。
女性のように細くて長い指が十本、きれいに揃っている。
「あいつ、亮二さんなら、きっとこうしたって…かっこよすぎるだろ?もう早速、亮二さん気取りだぜ、あいつ」
泣き笑いの浩介の手に、博子はたまらずそっと自分の手を重ねた。
「俺、何やっても鈍くさくてさ。亮二さんにも、直人にも迷惑ばっかかけて」
彼は肩を震わせた。
「でもまだ族やってる時に、亮二さんに誉めてもらったことがあるんすよ。バイクいじるのがうまいって。俺、嬉しかったぁ…すんげぇ嬉しかったぁ」
子どものように、ポロポロと彼の目から涙がこぼれ落ちる。
博子はそっと手を引いた。
「浩介くん…」
「あの人が初めてだったんすよ。
俺のそういうとこ認めてくれたの。
だからカタギに戻ったら、あの人に誉めてもらったことやろうって。そこだけは誰にも負けたくないって…そう思っ…。
ほんっとに組じゃ役に立てなかったし、むしろ足手まといだったから、俺」
鼻をすすると、浩介はもう一度コップに手を伸ばした。
「そんなことないわよ」
「え?」
手が止まる。
「足手まといだなんて、そんなこと絶対にない」
浩介は目を真ん丸にして、引いた手を膝の上に置いた。
「新明くんね、言ってたの。
浩介くんを見てると、まだ自分は根っからの悪者になったんじゃないって思えて、ホッとするんだって。彼なりにたくさん悩むことがあったんだと思う。でもあなたを見ていると、気持ちが和らいだんじゃないかな。あなたを本当の弟のように思ってるって、そう私に話してくれたの」
博子は浩介に優しく微笑んだ。