はぐれ雲。
「あの人、素直じゃないでしょ?
そういうこと思ってても、口に出さないのよね。気持ちは言葉にしなきゃ、相手には伝わらないのにね。伝わらなきゃ、せっかくのそんな気持ちも台無しなのにね」

「……」
浩介がうつむいた。

大粒の涙が膝の上で握りしめられた拳に落ちる。

「俺、ずっと亮二さんに憧れてた。
頭キレるし、度胸もあるし、仕事もできて…ずっとそんなとこがカッコいいって。
ああいう男になりたいって」

豪快に鼻をすする。

「それなのに、最後の最後でリサのことで、あのレンってやつにやられちゃってさ…
マジで鈍くさいっすよね」

そこまで言って、涙と鼻水が入り混じった顔で、まるで子どものように「あはっ」と笑う。

博子はティッシュを取って来ると、彼の前に差し出した。

早速手を伸ばして、2、3枚手に取り、勢いよく鼻をかんだ。

その様子に思わず笑ってしまう。

「でもね、俺思ったんすよ。
離れ離れになっても、あんたのことがずっと好きで…あんたを守りたくってもできなくて、それで悩んで苦しんでさ。
死ぬ瞬間まで惚れた女のことを想って…」

赤く腫れた目が真っ直ぐに博子を見た。

「そんな亮二さん、いいなぁって。カッコいいなぁって…そう思った」

浩介はそう言うと、胸ポケットから大切そうにハンカチを取り出すと、そっとテーブルの上に置いた。

「…何?」

彼女の問いに黙って、折り畳んであったハンカチを広げる。


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