はぐれ雲。
「そ…それで、どうしたの」

声がかすれた。

「すぐに、新明先輩…っぽい人に電話がかかってきて。話がどうも仕事でトラブった感じだった。すぐに女の人とお店出ちゃったのよ」

<そんなに近くにいるなんて…どうして?だって彼は…>

真梨子の言葉が遠いところから聞こえるような気がした。

「でねでね。私ね、お店の若い子に聞いちゃったの。じゃあ、あの人は圭条会の幹部さんです、って。よく来てくれるんだ、って」

「圭条会!?」

耳を疑った。
頭を突然殴られたような衝撃だった。

「圭条会って、あの?」

「うん、たぶん」

真梨子は眉間に皺を寄せて頷いた。

「暴力団幹部…新明くんが?」

博子はどこを見ていいかわからなかった。

視点が定まらない。

圭条会とは、博子たちが住む地域に本拠を置く指定暴力団の一つだった。

達也も圭条会がらみの事件を何件か担当したことがある。

地域住民とのトラブルもよく耳に入った。

まさかその組織に彼がいるなんて、信じられなかった。

「言いにくいんだけどさ、30歳そこらで幹部ってさ…それなりに『実績』っていうか…その、何て言えばいいのかわかんないけど、いろいろやってないとなれないんじゃないかな。先輩さ、かなりリッチそうだったし、圭条会ってこの辺り仕切ってる感じだし」

真梨子なりに言葉を選んでいるようだった.

でも博子の耳には届かない。

<そう、あれは15年前。突然彼は私の目の前から姿を消してしまった。

何も言わずに。

何も残さずに。

ただ、私の想いだけを、置き去りにして…>

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