はぐれ雲。

「おい!待てよ!」

彼の声は追いかけてくるのに、彼自身は追いかけてきてくれない。

<いや!待たない…!>

博子はチョコを抱えたまま、ひたすら走った。

<どうして素直に渡せないんだろう。たかがチョコなのに>

箱の中のチョコがカタカタ鳴った。

もう割れてしまったかもしれない。

彼に食べて貰いたくて、ありったけの想いをこめたのに。

でも、そんなことどうでもいい。

『私だけを見て』

博子のチョコには、そんなことを言う勇気がない。

あんなに一生懸命作ったのに、勇気までは作れない。

<バカ…>


走って走って、自宅近くの小さな公園までやってきた。

誰もいない。


水飲み場近くに、針金を編んだようなゴミ箱がひとつ。

のぞいてみるが、何も入ってない。

博子は持っている箱を見つめた。

そしてゴミ箱の大きな口の上にそれをかざす。

目を閉じ、指の力を抜くと、

カシャン…

と切ない音がして、チョコはゴミ箱の大きな口に吸い込まれていった。



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